気がついたら社会人学生になってた話

社会人アドベントカレンダー2022、13日目です。

TL; DR

  • 起業の流れに乗ると社会人学生に進化することがある
  • 労働と研究の両立は大変
  • 学費や就活の心配はなくなる
  • 業務と研究のシナジーがあるよ

前提

あなたは誰?

学生としては、工学系の修士2年で、博士進学予定です。量子計算機の理論に関する研究をしています。

社会人としては、都内のとあるweb系企業でテックリードをしています。フロントエンド設計が得意分野です。

あなたは誰ではない?

大学を卒業してから再入学したわけではないです。(一回留年はしましたが)

通常の就職活動をしていません。

長期インターンとして会社に所属しているわけではありません。

研究職でもありません。

社会人学生になった経緯

社会人学生になる経緯は今から5年前、学部2年の夏までさかのぼります。2017年のことです。

当時学園祭のシステム部局の統括者を勤めていたためか、大学内の起業のときにエンジニアとして手伝ってほしいという誘いを何度か受けていました。とはいえ、そもそも学園祭の業務が忙しかったのと、「そもそも自分である必要があるのか」「(申し訳ないけど)あまりビジネスモデルに興味が持てない」といったことでお断りをすることが多かったです。

そんな中、9月の半ばにTwitterの大学の知り合いからDMが飛んできました。「仮想通貨の仕組みと動画配信サービスを用いてマイナーなスポーツチームを支援しよう」というものです。2022年現在ではNFTやメタバースなどの名前で知られているビジネスモデルですが、2017年の当時としては非常に野心的なビジネスモデルでした。そして今ほど胡散臭さがなく、楽観的な雰囲気があったようです。(ちなみに現在は全然違うことをしています)

それと、Twitterでフロントエンドをやっていると公言していた自分に、仮想通貨と動画配信!というのは大きな驚きでした。今までのお誘いは基本的にはウェブメディアの整備であり、技術的にもビジネス的にもあまり興味を惹かれなかったのに対して、自分のやったことのない領域にトライできるというのはかなり魅力的でしたし、「やったことない」と返答してもなお「いや、来てみなよ」と返してくれたのは「自分と仕事したいんだな」という感覚を強めました。

そして、2017年11月にその会社は登記されました。僕自身は創業メンバーではありますが、インターンという名目で参画していました。2020年にはパートタイムの正社員に契約が切り替わり、今に至ります。

色々ありましたが、ざっと要約すると「起業に誘われてやってたら気がついたら正社員になってた」ということです。推測ですが、「起業に誘われて学生でありながら正社員になる」というやり方にはある程度の再現性があると考えています。少なくとも東大のような学生の起業が活発な大学では、一定の割合で「知り合いの能力がわかっているエンジニアを取る」というスタートアップが現れるでしょう。起業プログラムで仲間を見つける事もできます。そして、時間的にクリティカルでない仕事がメインでかつ十分長い間会社に所属した場合、「学生でありながら正社員」という立場になると考えられます。

労働と研究の両立の大変さ

現在、労働時間としては週20-25時間ほどです。つまり、フルタイムの人間の半分ほど働いていることになります。これは労働するにしても研究するにしても大変です。

正直あまりおすすめできないです。

労働の面では、単純計算でフルタイムの人の半分しか仕事ができません。設計などのように代替不能な仕事をする場合はこれでもなんとかすることはできますが、緊急対応のような仕事がほとんどできなくなるというのは大きな制約になります。(大学の講義が終わってみたらめっちゃメンションが飛んできており、問題が発生して解決していたみたいなことがあったりする)何より給料もフルタイムの半分になります。

研究の面では、まとまった時間がとりにくいことやコンテキストスイッチが非常に辛いところです。他の人がやるように「1日で一気に進捗する」みたいな挙動がほぼ封印されますし、仕事モードから研究モードに頭を切り替えて研究内容をメモリにロードするのをやったと思ったら時間が終わってた、みたいなのが起こったりします。

このタイプの社会人学生のメリット

一方で明確なメリットもいくつかあります。

まず、就活の心配をほとんどしなくていいことです。会社での立ち位置がほぼ保証されているため、仮に就活に失敗しても問題がありません。また、同じ年代の学生に比べて圧倒的に実績が積めます。特にスタートアップではプロダクトの企画、立ち上げから運用保守、フロントエンドからインフラまでオールラウンドに関わるため、経験値は莫大です。これはエンジニアのように経験が採用に効いてくる状況では特に有利になります。

また、学費の心配をしなくてもよくなります。学振が取れなくても自分の好きな研究を自分のお金である程度できるようになるというのは相当な安心感があります。(理論系の場合は特に)

業務と研究のシナジー

最後に、(少なくとも知的生産業の場合の)社会人学生の強みとして、「労働と研究のシナジーを観測できる」というのがあると思っています。

研究から業務に活かせることについては今までいろんな人が述べているので軽い言及にとどめます。説得力のある分析や学習能力などですね。基本的には知的生産における質と深さが効いてくると考えています。

一方で、逆に、業務から研究に活かせることもあります。(プログラミングのような)知的生産業の業務の場合、スピードと安定性、特に「不確実性」のハンドリングが重要になることが多いです。(まあ研究でも重要ですが、業務だとより表面化しやすいと思っています)これは研究において、純粋な結果を成果物に仕上げるというプロセスの安定性とスピードを上げるのに応用することができます。少なくとも自分のような未熟な修士学生としては、ミーティングで何話すかとかどういう進め方をしたらよいかなどの知見を業務での経験から部分的に構築できるのはかなり助かりました。

まとめ

なんだかんだ言ってこのタイプの社会人学生はあまりおすすめできません。やっぱ両立が辛いです。とはいえ、嫌になったらどっちか全振りに移行するのもそんなに難しくないですので、シナジーが気になる方や就活嫌すぎる方はやってみる価値はあると思います。

そしてすでにこうなっている方は反応をいただけると幸いです。周りではほとんど観測できておらず、かなり手探りなので知見を共有したいためです。

それではまた。